ご案内
水越 啓(みずこし・さとし)テノール
小林道夫 ピアノ
シューベルト:美しき水車小屋の娘 作品25、D795
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シューベルト(1797-1828)の連作歌曲《美しき水車小屋の娘》(1823)は、 同じ詩人による晩年の作《冬の旅》(1827-8)に比べて、2つの点でロマンティックである。主人公が明らかにティーンエイジャーであること、母なる自然がこの少年を「死」という救済に導くこと。ひたむきな青春の衝動が歌われる。この歌曲集は、シューベルトの生前に名だたる友人たちによって熱心に歌われ たこともあり、当時、親友歌手フォーグルによる異稿(ディアベリ版)やギター伴奏など、作曲家に由来すると考えられる多様な演奏スタイルが広まっていた。
今回の企画はそれらを踏まえたうえで、5人の共演者と5回の演奏会を通して、こ の作品の滋味をゆっくり露わにしていくだろう。日本リート界を牽引してきた小林道夫によるモダン楽器伴奏(第一回)は日本人が長年よく馴染んできたスタイルであり、幕開けとして最適の布陣だ。そもそも連続演奏会とは、長い道のりの中で演奏者も成長し変貌を遂げていくものでなくてはなるまい。水越 啓という歌手が、必ずしもキリスト教的な価値観には収まらないこの作品に――自ら対訳を作り、時に言葉を発しつつ――ライフワークとして挑むことで、たんなる演奏会にとどまらない哲学的認識を、演奏家と聴き手がともに育むこと。この理想を実現させる条件がこの演奏会には揃っていると思う。
堀 朋平(音楽学)